全体についての消防計画とは?統括防火管理を解説
複数の事業者が入居するビルや複合施設では、各テナントが個別に消防計画を作成するだけでは不十分な場合があります。建物全体を一体的に管理するための仕組みが「統括防火管理」であり、その核心となる書類が「全体についての消防計画」です。
この記事では、統括防火管理の概要・対象となる建物の条件・全体消防計画に盛り込むべき内容・届出の流れを順に解説します。消防計画全般の基礎知識は消防計画・防火管理の完全ガイドもあわせてご参照ください。
統括防火管理とはなにか
統括防火管理とは、複数の管理権原者(テナントオーナーや区分所有者など)が存在する防火対象物において、建物全体の防火管理を統括する責任者(統括防火管理者)を定め、全体としての消防計画を作成・実施する制度です。消防法第8条の2の2に根拠があります。
各テナントの防火管理者はそれぞれの区画について消防計画を作成しますが、共用部分の避難経路確保や合同訓練の調整など、建物全体に関わる事項は個別の計画だけでは対応しきれません。統括防火管理はこのギャップを埋めるための仕組みです。
対象となる建物の条件
統括防火管理の対象となるのは、高層建築物(高さ31メートルを超えるもの)や一定規模以上の複合用途防火対象物などです。ただし、具体的な対象要件は消防法施行令で定められており、建物の用途・規模・収容人員によって判断が異なります。
防火管理者の選任義務が生じる収容人員の基準として、消防法施行令第1条の2第3項は次のように定めています。
- 避難困難者入所福祉施設等(令別表第一6項ロ・16項イ等):収容人員が10人以上
- 特定用途(同表1〜4項・5項イ・6項イハニ・9項イ等):収容人員が30人以上
- 非特定用途(同表5項ロ・7〜15項・16項ロ・17項等):収容人員が50人以上
統括防火管理の対象かどうかは、まず各テナントに防火管理者の選任義務があるかを確認し、そのうえで建物全体の構造・用途を所轄消防署に確認するのが確実です。
全体についての消防計画とはなにか
全体についての消防計画は、統括防火管理者が作成し、所轄消防署長へ届け出る計画書です(消防法第8条の2の2、施行令第3条の2)。各テナントの個別消防計画とは別に作成する必要があります。
計画に盛り込む主な事項
全体消防計画には、おおむね次の事項を記載します。
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統括防火管理者の氏名・職務権限 建物全体の防火管理を統括する者を明確にします。
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防火対象物の位置・構造・設備の概要 建物全体の平面図・立面図、消防用設備等の配置を記載します。
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自衛消防組織の編成と任務分担 共用部分の初期消火・避難誘導・消防機関への通報を担う組織を定めます。
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避難経路・避難施設の管理方法 共用廊下・階段・非常口の維持管理ルールを記載します。
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消防用設備等の点検・整備の方針 共用部分の設備について、点検スケジュールと責任者を明示します。
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合同訓練の実施計画 後述する訓練の実施方針を記載します。
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各テナントの個別消防計画との整合 個別計画と全体計画が矛盾しないよう調整する手順を定めます。
訓練の実施義務
消防法施行規則第3条第10項・第11項により、令別表第一1〜4項・5項イ・6項・9項イ・16項イ等に掲げる防火対象物の防火管理者は、消火訓練および避難訓練を年2回以上実施しなければなりません。また、実施前にあらかじめ消防機関への通報が必要です。
統括防火管理者は、各テナントの防火管理者と連携して合同訓練を企画・調整する役割を担います。通報の様式や運用は所轄消防署・自治体により異なりますので、事前に確認することをおすすめします。
届出と変更の手続き
全体についての消防計画は、統括防火管理者が作成し所轄消防署長へ届け出ます(消防法第8条の2の2、施行令第3条の2)。変更が生じた場合は変更届の提出が必要です。
法令上、消防計画の定期的な見直し頻度(年1回など)を定めた規定は確認されていません。施行規則第3条は「消防計画を変更するときも同様とする」と定めており、これは用途・収容人員・組織などの実情が変わった際に変更届を提出する義務を規定するものです。定期見直しの周期を定めた条文ではありません。
したがって、次のような変更が生じた場合は速やかに変更届を提出してください。
- テナントの入れ替えや用途変更
- 収容人員の増減
- 統括防火管理者や各テナント防火管理者の交代
- 建物の増改築や消防用設備の変更
罰則の構造
消防計画の作成・届出義務(消防法第8条1項)そのものに直接罰則はありません。所轄消防長等から改善命令(第8条3項)を受け、それに違反して初めて第42条第1項第1号(6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)の対象となる二段階構造です。
一方、防火管理者の選任・解任の届出義務(第8条2項)については、届出を怠ること自体が第44条第8号(30万円以下の罰金または拘留)の対象となります。
統括防火管理者の選任届についても同様の届出義務があります。命令を受けてから対応するのではなく、義務が発生した時点で速やかに届け出ることが重要です。
個別消防計画との関係
統括防火管理の導入後も、各テナントの防火管理者はそれぞれの区画について個別の消防計画を作成・届出する義務を引き続き負います。全体消防計画は個別計画を代替するものではなく、建物全体に関わる事項を補完するものです。
想定例として、複数のテナントが入居するオフィスビルを考えてみます。各テナントが個別に避難訓練を実施していても、共用廊下の避難経路が別テナントの荷物でふさがれていれば、全体の避難計画は機能しません。統括防火管理者が全体消防計画のもとで共用部分の管理ルールを定め、合同訓練を実施することで、こうした問題を事前に発見・是正できる場合があります。
統括防火管理者に求められる要件
統括防火管理者は、防火管理者の資格を有する者のなかから、管理権原者が協議して選任します。選任後は所轄消防署長へ届け出が必要です。
統括防火管理者には、各テナントの防火管理者に対して必要な指示を行う権限が与えられます。ただし、各テナントの管理権原者の権限を侵害するものではなく、あくまで防火管理に関する調整・統括の役割です。
資格要件の詳細や講習の受講方法は所轄消防署または都道府県の消防学校にご確認ください。
トドケデ消防計画(plan)でできること
トドケデ消防計画(plan)は、消防計画の作成支援サービスです。全体についての消防計画や個別消防計画の作成を、事業者ご自身が進めやすいよう、必要な記載事項の整理・確認をサポートします。
書類の作成・所轄消防署への提出は事業者ご自身が行っていただきます。行政書士への依頼が必要な場合は、提携行政書士が受任する形でご案内することも可能です(提携行政書士による受任となります)。
統括防火管理の対象かどうかの判断や、全体消防計画の記載内容についてご不明な点がある場合は、まずお気軽にご相談ください。
まとめ
- 複数の管理権原者が存在する一定規模以上の建物では、統括防火管理者の選任と全体についての消防計画の作成・届出が義務となります。
- 防火管理者の選任義務が生じる収容人員は用途により10人以上・30人以上・50人以上と異なります。
- 消火訓練・避難訓練は対象用途の防火対象物で年2回以上の実施が義務であり、事前に消防機関への通報が必要です。
- 消防計画の定期見直し頻度を定めた法令規定はなく、用途・収容人員・組織等の変更時に変更届の提出が必要です。
- 消防計画の届出義務そのものへの直接罰則はありませんが、命令違反は罰則の対象となります。
消防計画・防火管理の全体像については消防計画・防火管理の完全ガイドをご覧ください。著者プロフィールはこちらからご確認いただけます。
著者: 元京都市消防局13年・現役防災士(日本防災士機構認定)・消防設備士・危険物取扱者
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断については所轄消防署または専門家にご相談ください。